FIDEA

平松琴絵「Koty」からのメッセージ

何故、日本人の私がメスカルというメキシコのお酒を手掛けたのか。

これは完全に、「縁」と「使命」だと思っています。
勿論、メスカルというお酒に魅了され、その味を気に入ったということも大きな理由のひとつですが、その魅力は味というところにとどまりません。
原材料のアガヴェの個性やそれらの素材の品質を見極めるマエストロの力量、経験値、家族で蒸留所を守り続けている伝統的な暮らしぶりを見て感動し、敬意の気持ちを抱きました。

自分が感動したものを伝えたい、というシンプルな考え方が私の人生です。
勿論、全ての人に理解、共感してもらえるわけではないでしょう。世界中に素晴らしいお酒が沢山ある中で、私とメスカルとの縁を通じて、その文化を少しでも形にして広めることができればと思い、ようやく出来上がったのがこの一本です。

微力な私一人だけでは、到底なし得ることの出来ないことでした。
ただ単にブランドを作る、ということはある意味簡単です。
しかし、自分が納得のいくものを形にするということは容易なことではありませんでした。この一本にたどり着くまでの経緯に関わった人たちとの信頼関係や、私を理解し応援してくれた家族の存在があってこその一本です。

Koty’s Selection For Japan アガヴェの品種はハバリ。
ハバリというアガヴェは、メスカルに用いられる品種の中でも稀少です。サポニンが多く、生産過程で多くの泡が出るため、作り手にとってもとても扱いにくいアガヴェです。初めて手掛けたメスカルが数十種類あるアガヴェの品種の中でこの「ハバリ」になった経緯は、沢山の寄り道と山あり谷ありのものでした。

そして今、この結果にとても満足しています。

初めの一歩となるメスカルは、私を理解し、信じ、いつも見守ってくれた母への感謝の気持ちを込めた一本にしたいと思っていました(そんな母はお酒が飲めないのですが…)。 そのような理由から、今回のボトルの味の方向性は、抽象的に表現すると「母性」。ハバリというアガヴェの品種の個性を大事にしながら、あたたかさや優しさ、奥行きと逞しさとを感じる味わいです。

メキシコを訪れ、メスカルの蒸留所を巡り、試飲をかさねながら様々なことを学びました。他方で、まだまだ学び足りないということを実感させられ、知れば知るほどに自分が納得のいくメスカルを作るということはとても難しいことだと感じ始めていました。無理かもしれないと。 素晴らしいお酒を作るにあたっては製造工程が重要であるのは勿論ですが、味を左右する一番の要素は原材料です。素晴らしいアガヴェ、その素材を見極めることのできる経験値とメスカル作りへの情熱を持ち、丁寧な仕事ができるマエストロとの出会いを探していました。そして彼らと信頼関係を築くことが不可欠です。 しかし、日本に居ながらこれらを実現することの難しさを感じ、半ばあきらめかけながらオアハカをあとにしたのが、昨年2020年3月のことでした。帰国するや否や、この新型コロナ禍による飲食店の自粛要請で店も休業し、不安な日々を送っていたある日、メキシコからの連絡が届きました。LA MEDIDAのブランド・オーナーのフリアンからでした。メキシコに行くといつも親切に迎えてくれ、蒸留所の視察、観光も含めてメキシコでの滞在中は殆んど一緒に行動を共にしてくれる尊敬すべき友人です。

前回のメキシコ視察では、アクシデントでオアハカからメキシコ・シティまでの飛行機に乗ることができず、親切にもフリアンが車でメキシコ・シティまで送ってくれました。その5、6時間の移動の間に、思い切って自分のメスカル・ブランド作りについて相談をしました。自分のメスカルへの思い、メスカルとのストーリー、どうすれば私のしたいことが実現できるのかなど、聞ける限りのことを質問しました。 メキシコ・シティのホテルにたどり着くと、フリアンは、車に積んでいた数本のメスカルのテイスティングをして、コメントをくれないか、と言ってきました。その中でとても美味しいと印象に残ったメスカルがハバリだったのです。

フリアンからの連絡は、信頼のおける蒸留所で品質のしっかりしたハバリを作るマエストロを知っているけれども紹介しますか?という内容のものだったのです。直ぐにでもメキシコへ向かって、その蒸留所を訪れたい気持ちでいっぱいになりましたが、このコロナ・ウイルスの状況下、そうも行きません。 私はこの「流れ」、「縁」を贈り物のように受けとめ、お願いすることに決めました。何よりフリアン・ファミリーを信頼し尊敬していたので、不安はありませんでした。

そしてついに自分の手に届いたメスカルを眺め緊張しながら、テイスティングを始めました。

48度という度数を感じさせないスルッと滑らかな優しい喉ごし。喉に引っかかるアシッドがないのはマエストロの素晴しい仕事のなせる技です。鼻からオリエンタルな樹脂を焼いたような香りが抜け、ミンティなサッパリ感とフローラルなブーケを思わせる奥深い甘さの余韻を長く感じます。時間を置く程に色々な香りのニュアンスが立ち、厚みのある深い味わいに仕上がっています。いわゆる華やかで分かり易い個性的な味わいではありませんが、ワビサビ(詫び寂び)を感じさせます。華やかさから少し離れた不足の美得のような美味しさです。
全てを受け止めるような奥行のある、「慈悲深い」母性的な味わいです。
数杯飲んでも飽きさせないまとまり感と、この母性を感じさせる味わいに感動しています。
当初は別のアガヴェでのメスカル作りを考えていたところ、まさかのハバリからのスタート。にもかかわらず、私が目指していた味わいのトーンにかなっていたこと。 不思議な気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになりました。

これからこのメスカルを飲まれた皆様の感じ方は様々でしょう。お好みでなかった場合も含めて、私はこのメスカルが素晴しいアガヴェを使い、素晴しいマエストロによって手塩にかけて作られた、素晴らしい出来のお酒であることを、自信を持ってお伝えできます。

このような形ですが、メキシコの文化の一端を伝える最初の一歩が、漸く現実になりました。小さな一歩かも知れませんが、この先も2歩、3歩と、可能な限りチャレンジしていこうと思っています。

残念な事に希少なアガベで全て手作りな為、限定84本です。
今後、このような素晴しいアガベの品種、蒸留所と更に出会い、シリーズ化をしていく予定でいますので、今回のKoty's Selectionハバリに続く異なる品種のアガベのメスカルを期待してお待ち頂けましたら幸いです。

最後に、Koty's Selection For Japanのリリースに力を貸して下さったフリアン・ファミリー、蒸留所のマエストロとそのファミリー、応援してくれた友人達、見守ってくれた父母、そして素晴しいアガヴェに感謝の「有難う」を送ります。

皆様のより豊かで愉しい経験が増すことを願いつつ、このお酒をお届けしたいです。Dixbee